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(新着論文)うつ病における幻覚剤とケタミンの生物学的メカニズム

原題: Psychedelics and ketamine/esketamine in depressive disorders: biological mechanisms and associated neuroimaging and clinical changes.
d’Andrea G, Chiappini S, Ciavoni L, Tucci R, Martino F, Semeraro FM, Di Battista D, Mosca A, Miuli A, Di Carlo F, Russo M, Di Petta G, Fornaro M, Pettorruso M, Sensi SL, Martinotti G / Translational psychiatry / 2025 / DOI / PubMed

抄訳:
過去10年間で、LSDやシロシビン、アヤワスカ、DMTなどの幻覚剤が不安やうつ病などの精神疾患に対する臨床試験で試されてきました。これらの化合物は治療に利用可能ですが、特にケタミンとそのS(+)エナンチオマーであるエスケタミンは、治療抵抗性うつ病の管理にますます使用されています。これらの化合物によって引き起こされる生物学的メカニズムはまだ十分に解明されていませんが、初期データは特定の脳ネットワークと神経伝達物質経路(グルタミン酸、セロトニン)の調節活動を示しています。本系統的レビューは、これらの化合物(LSD、シロシビン、アヤワスカ、DMT、ケタミン/エスケタミン)がうつ病において生成する神経活動の機能的変化を調査しました。研究には、PET、SPECT、fMRI、MRIなどの異なる技術を用いたものが含まれています。文献検索は2015年のPRISMAガイドラインに従って行われ、2022年3月までの出版物を考慮しました。最終的に49件の論文が選ばれ、ほとんどがケタミン/エスケタミンに関連していました。シロシビンはデフォルトモードネットワーク(DMN)の活動をリセットし、長期的かつ持続的な抗うつ効果を示すようです。ケタミンは前頭前野を含むネットワークに特異的に作用し、感情刺激に対する認知制御を増加させ、陰性気分を軽減する役割を果たします。

PECO:

  • P(対象): うつ病患者
  • E(暴露): 幻覚剤(LSD、シロシビン、アヤワスカ、DMT)およびケタミン/エスケタミン
  • C(比較): 通常の治療またはプラセボ
  • O(結果): 脳活動の変化と抗うつ効果

一言: 近年、LSDやシロシビンなどの幻覚剤が不安やうつ病の治療に試験されてきました。特にケタミンとエスケタミンは治療抵抗性うつ病に対する有効性が注目されています。本研究はこれらの化合物が脳活動に与える影響を調査しました。

エビデンスレベル: 7/10
評価理由: この研究は49件の論文を系統的にレビューし、特にケタミンとエスケタミンの効果に関する強い証拠を提供しています。ただし、幻覚剤に関する研究は限られており、さらなる研究が必要です。

臨床メモ(活用点・注意点・外的妥当性・日本の臨床との整合)

本研究は、幻覚剤およびケタミン/エスケタミンがうつ病に与える影響を調査しました。特にケタミンとエスケタミンは、治療抵抗性うつ病に対する有効性が示されており、前頭前野を含む脳の特定のネットワークに作用することで、感情刺激に対する認知制御を増加させる可能性があります。これにより、患者の陰性気分を軽減し、抗アヘドニア効果を発揮することが期待されます。一方で、シロシビンはデフォルトモードネットワークの活動をリセットし、長期的な抗うつ効果を示す可能性があります。これらの知見は、特に治療抵抗性のうつ病患者に対する新たな治療法の開発に寄与する可能性がありますが、日本の臨床現場での適用には慎重な検討が必要です。特に幻覚剤の使用に関しては、法的および倫理的な問題があるため、さらなる研究と議論が求められます。

(FAQ)

Q. ケタミンはどのようにうつ病に効果がありますか?
A. ケタミンは前頭前野を含む脳の特定のネットワークに作用し、感情刺激に対する認知制御を増加させることで、陰性気分を軽減します。これにより、治療抵抗性うつ病に対する有効性が示されています。

Q. 幻覚剤はうつ病治療に安全ですか?
A. 幻覚剤は一部の研究で抗うつ効果が示されていますが、法的および倫理的な問題があるため、使用には慎重な検討が必要です。さらなる研究が必要であり、現時点では標準治療としては推奨されていません。


本記事は一般情報であり、個別の診断・治療を置き換えるものではありません。
精神保健指定医 児玉啓輔(監修者プロフィール

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参考リンク・関連資料