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(新着論文)社会不安障害とパニック障害に対する曝露療法の比較研究
原題: A randomized controlled trial comparing two processes of exposure therapy: Extinction learning and habituation.
Treanor M, Zbozinek TD, Rosenberg BM, Sewart A, Sandman CF, Ruiz J, Craske MG / Journal of consulting and clinical psychology / 2025 / DOI / PubMed
抄訳:
この研究は、社会不安障害とパニック障害に対する曝露療法の消去学習と習慣化の役割を検討するため、抑制性想起に基づく暴露と、習慣化重視の暴露を比較しました。89名の成人が参加し、抑制性想起を重視した療法と習慣化を重視した療法のいずれかを9週間にわたり受けました。主要な評価項目である面接者による苦痛と障害の評価では、両グループ間に有意な差は見られませんでした。しかし、自己報告による不安の軽減においては、抑制性想起を重視した療法が有意に優れていました。特に、治療後の自己報告による不安の臨床的に有意な変化を達成した参加者の割合は、抑制性想起を重視したグループで高かったです(43%対13%)。一方、習慣化に焦点を当てた療法は、いかなる評価項目においても優位性を示しませんでした。これらの結果から、抑制性想起を重視した曝露療法が、特に自己報告による不安の軽減において有効であることが示唆されます。
PICO:
- P(対象): 社会不安障害またはパニック障害を持つ成人
- I(介入): 抑制性想起を重視した曝露療法
- C(比較): 習慣化に焦点を当てた曝露療法
- O(結果): 自己報告による不安の軽減、面接者評価による苦痛と障害
一言: この研究は、社会不安障害とパニック障害に対する曝露療法の効果を比較しました。抑制性想起を重視した療法が自己報告による不安の軽減において有意な改善を示しましたが、全体的な効果には大きな差は見られませんでした。
エビデンスレベル: 7/10
評価理由: この研究はランダム化比較試験であり、信頼性の高いデータを提供しています。ただし、主要な評価項目での差が見られなかったため、全体的な効果の解釈には注意が必要です。
臨床メモ(活用点・注意点・外的妥当性・日本の臨床との整合)
この研究は、社会不安障害とパニック障害に対する曝露療法の効果を比較するために行われました。抑制性想起を重視した曝露療法は、自己報告による不安の軽減において有意な改善を示しましたが、面接者による評価では大きな差は見られませんでした。これは、患者自身の主観的な不安感の軽減に寄与する可能性があることを示唆しています。日本の臨床現場でも、患者の自己報告を重視した評価が重要であることが再確認されました。ただし、習慣化に焦点を当てた療法が劣っているわけではなく、患者の個別のニーズに応じた療法の選択が求められます。外的妥当性については、参加者の大半が社会不安障害であったため、パニック障害への適用には慎重な解釈が必要です。
(FAQ)
Q. この研究でどのような曝露療法が効果的でしたか?
A. 抑制性想起を重視した曝露療法が、自己報告による不安の軽減において有意な改善を示しました。ただし、面接者による評価では大きな差は見られませんでした。
Q. 習慣化に焦点を当てた曝露療法は効果がないのですか?
A. 習慣化に焦点を当てた曝露療法も効果がありましたが、抑制的再取得を重視した療法と比較して優位性は示されませんでした。患者の個別のニーズに応じた療法の選択が重要です。
本記事は一般情報であり、個別の診断・治療を置き換えるものではありません。
精神保健指定医 児玉啓輔(監修者プロフィール)
患者さんへのメッセージ
不安や悩みを抱えている方は開院後お気軽にご相談ください。当院スタッフが丁寧にサポートいたします。