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(新着論文)複雑性PTSDに対するスキーマ療法とEMDRの効果
原題: Treating complex PTSD with Schema Therapy, ImRs and EMDR: a review and case study.
van Hemert MTC, de Jong PM, Brouwer TR, Zoon L, Gunst E, Claes L, Morrens M / European journal of psychotraumatology / 2025 / DOI / PubMed
抄訳:
複雑性PTSD(CPTSD)は、児童期の虐待や家庭内暴力などの長期的なトラウマによって引き起こされることが多いです。PTSDの治療には認知行動療法(CBT)や眼球運動による脱感作と再処理法(EMDR)が推奨されていますが、CPTSDに対する効果は限定的です。本研究では、スキーマ療法(ST)、イメージ再構成法(ImRs)、EMDRを組み合わせた治療アプローチの効果を評価しました。治療は信頼関係の構築とケースの概念化から始まり、トラウマに焦点を当てた治療を行い、最終的には再発予防に重点を置きました。結果として、不適応スキーマの著しい減少とPTSDの臨床的カットオフを下回るまでの症状の改善が見られました。結論として、この治療アプローチは有望ですが、ランダム化比較試験によるさらなる研究が必要です。
PICO:
- P(対象): 児童期の持続的トラウマを背景にもつ成人の複雑性PTSD患者(本報告では1例)
- I(介入): スキーマ療法、イメージ再構成法、EMDRの組み合わせ治療
- C(比較): なし
- O(結果): 複雑性PTSD関連症状・不適応スキーマ・スキーマモードの臨床的に意味のある改善
一言: 複雑性PTSDは従来の治療法では効果が限定的となることが多いです。本研究は、スキーマ療法、イメージ再構成法、EMDRを組み合わせた治療アプローチの効果を評価し、有望な結果を示しましたが、さらなる研究が必要です。
エビデンスレベル: 6/10
評価理由: 本研究はケーススタディであり、サンプルサイズが小さいため、結果の一般化には限界があります。しかし、治療の有効性を示す初期の証拠としては有望です。
臨床メモ(活用点・注意点・外的妥当性・日本の臨床との整合)
複雑性PTSDの治療は、個々の患者のニーズに応じた個別化が求められます。本研究で用いられたスキーマ療法、イメージ再構成法、EMDRの組み合わせは、従来の治療法に比べて有望な結果を示しましたが、ランダム化比較試験によるさらなる検証が必要です。日本の臨床現場でも、複雑性PTSDに対する新たな治療法の導入が期待されますが、治療者の専門性や患者の個別の状況を考慮した慎重なアプローチが求められます。また、治療の進行に伴う患者の心理的負担を軽減するため、信頼関係の構築が重要です。治療の効果を最大限に引き出すためには、患者のフィードバックを取り入れた柔軟な治療計画が必要です。
(FAQ)
Q. 複雑性PTSDとは何ですか?
A. 複雑性PTSDは、トラウマティックイベントによって引き起こされる精神的障害で、通常のPTSDよりも複雑な症状を呈します。
Q. スキーマ療法とはどのような治療法ですか?
A. スキーマ療法は、患者の根深い信念や行動パターンを理解し、これを修正することで心理的健康を改善する治療法です。特に複雑性PTSDのような深刻な症状に対して有効とされています。
Q. この研究の結果はどのように活用できますか?
A. この研究は、複雑性PTSDに対する新しい治療アプローチの可能性を示しています。治療者は、患者の個別のニーズに応じて、スキーマ療法やEMDRを組み合わせた治療を検討することができます。
本記事は一般情報であり、個別の診断・治療を置き換えるものではありません。
精神保健指定医 児玉啓輔(監修者プロフィール)
患者さんへのメッセージ
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