不安障害の最近の研究の要点整理(2023–2025)

ここでは、全般性不安障害(GAD)や広く不安症状に関連する近年の研究から、患者さんにとって有用な論文を4本紹介します。内容は各論文の抄録・本文に忠実にまとめています。


1)インターネット認知行動療法(iCBT)は12か月以降も効果が確認されたメタ解析

Nur Hani Zainal, Chui Pin Soh, Natalia Van Doren, Corina Benjet / Clinical Psychology Review / 2024年11月16日

PMID: 39579466 / DOI: 10.1016/j.cpr.2024.102518 / PubMed: リンク

要点:154件の無作為化試験(合計45,335例)を対象に、12か月以上の追跡データを統合。ガイド付きiCBTは、待機・通常治療・能動的対照より、12か月時点で寛解・信頼できる改善・反応率が高く、サブオプティマル転帰は低いことが示されました(例:寛解等の二値アウトカムでlogリスク比1.15[1.04–1.26])。連続尺度では、ガイド付きiCBTは不安・抑うつ・PTSD症状・反芻的思考をより大きく低下(Hedges g −1.86〜−0.31)。自己実践型iCBTでも抑うつ症状は対照より低下(g −0.51)。12か月以降のフォローアップでも、ガイド付きiCBTは不安・抑うつ・苦痛・不眠・PTSD・役割機能などに有意な改善(g −0.31〜0.26)、自己実践型でも不安・抑うつに小さいが有意な改善(g −0.16〜−0.09)。出版バイアスの証拠は認められませんでした。長期効果は多くのアウトカムで短期と同程度でした。

PICO:
P(対象)=不安や抑うつなどの精神症状を有する成人を含む試験参加者群(154 RCT, N=45,335) / I(介入)=ガイド付きまたは自己実践型のiCBT / C(比較)=待機・通常治療・能動的対照など / O(評価)=12か月以上での寛解・反応・症状変化(不安・抑うつ・PTSD・不眠等)

注記:自己実践型iCBTの二値アウトカムは研究数不足で検定できない項目がありました。レビューは長期フォローを満たす研究に限って集計しています。


2)マインドフルネス系スマホアプリは短期の不安症状を「小〜中等度」だけ下げるエビデンス

Jake Linardon, Mariel Messer, Simon B. Goldberg, Matthew Fuller-Tyszkiewicz / Clinical Psychology Review / 2023年12月3日

PMID: 38056219 / DOI: 10.1016/j.cpr.2023.102370 / PubMed/PMC: リンク

要点:ランダム化比較試験43件を統合。短期の効果量は、抑うつg=0.24(95%CI 0.17–0.31)、不安g=0.28(95%CI 0.21–0.35)で、対照群より小さいが有意な改善が示されました。効果はバイアス低リスク・大規模試験に限定しても概ね維持。能動的対照(他の治療アプリ等)との直接比較では、抑うつg=−0.15、不安g=0.10といずれも有意差なし(研究数は少数)。研究間の調整分析では、報酬提供の有無が抑うつへの効果に関連した以外に一貫したモデレーターは検出されていません。長期フォローのデータは乏しく、効果の持続性は未確定です。

PECO:
P(集団)=成人などの試験参加者(症状の有無は研究ごと) / E(暴露)=マインドフルネス系スマホアプリ(瞑想・呼吸・ボディスキャン等) / C(比較)=待機・情報提供・非治療アプリ等(能動的対照を含む) / O(アウトカム)=抑うつ・不安の短期スコア(主にポスト評価)

注記:多くの試験が自己記入アウトカムの短期評価で、長期追跡は不足。能動的対照との比較研究数は少なく、差が小さい可能性があります。


3)高齢者の不安症状に対する運動の効果:無作為化試験11件のメタ解析

Saba Goodarzi, Mohammad Mobin Teymouri Athar, Maryam Beiky, ほか / BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation / 2024年7月16日

PMID: 39014515 / DOI: 10.1186/s13102-024-00947-w / PubMed: リンク

要点:60歳以上の高齢者を対象とする無作為化試験11件(計770名)を統合し、運動介入は対照群より不安症状を有意に軽減(標準化平均差SMD −0.60、95%CI −0.88〜−0.32)。有酸素・筋力・複合など、種類にかかわらず効果が示されました。10週未満の短期フォローでは統計学的に有意差が出ない研究もありました。異質性は中等度(I²=67%)。感度分析では全体効果の頑健性が確認され、出版バイアスの指標(Egger検定p=0.36)では偏りの明確な証拠は認められませんでした。

PECO:
P(集団)=高齢者(60歳以上) / E(暴露)=心拍数を上げる運動(有酸素・レジスタンス・複合) / C(比較)=特別な運動推奨のない対照等 / O(アウトカム)=不安の質問紙スコア(RCTの事前規定尺度)

注記:高齢者に限定したメタ解析であり、若年〜中年への一般化は直接は示されません。各試験の運動内容・追跡期間にばらつきがあります。


4)ビデオ会議型CBT(VCBT)は全般性不安障害で有効:無作為化試験の結果

Vesna Trenoska Basile, Toby Newton-John, Sarah McDonald, Bethany M. Wootton / British Journal of Clinical Psychology / 2024年6月11日

PMID: 38860620 / DOI: 10.1111/bjc.12482 / PubMed: リンク

要点:全般性不安障害の成人78名を、直ちに治療を受ける群と待機群に無作為割付。治療群では、介入前から介入後の変化量(d=1.03)、介入前から3か月追跡(d=1.50)で有意な減少が示され、介入後の群間差も大(d=0.80)。診断基準を満たさない割合は、介入後で64.10%(25/39)、3か月追跡で66.67%(26/39)。満足度は96%でした。結論として、VCBTはGADに対し有効性と受容性が示されました。

PICO:
P(対象)=全般性不安障害の成人(平均年齢36.9歳、女性84.4%) / I(介入)=ビデオ会議で実施する高強度のCBT / C(比較)=待機対照 / O(評価)=不安症状の効果量、診断寛解相当の割合、満足度(〜3か月追跡)

注記:単施設に近い構成・女性比が高いなど、一般化の範囲は限定的です。対面CBTとの非劣性比較は本研究では行っていません。


総まとめ

  • インターネット配信の認知行動療法(iCBT)は、12か月以上の時点でも不安・抑うつなどで有効性が確認された研究が多数あります(ガイド付きで効果が広範)。二値アウトカムの一部は自己実践型で検討数不足があるなど、アウトカムごとにエビデンスの厚みは異なります。
  • マインドフルネス系アプリは短期の不安・抑うつを「小〜中等度」に下げる効果が報告されていますが、能動的対照との比較では有意差が示されない場面もあり、長期の持続性は未確定です。
  • 高齢者に限ったメタ解析では、運動(有酸素・筋力・複合)により不安症状を有意に軽減する結果が示されました。追跡が短い研究では有意差が出ないこともあります。
  • ビデオ会議で行うCBT(VCBT)は、全般性不安障害で待機対照より大きな効果量・寛解相当の割合が報告されています。試験規模や構成の点で、今後の検証が引き続き必要です。

※本記事は研究結果の紹介であり、各論文の範囲・限界に沿って記載しています。個々の選択や受診に関する判断は、実際の診察情報に基づくことが重要です。

精神保健指定医 児玉啓輔