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(新着論文)職業性ストレスとうつ病におけるグルココルチコイド受容体遺伝子のメチル化

原題: Occupational stress and epigenetic regulation: methylation of the glucocorticoid receptor gene promoter in depressed workers.
Veltri A, Nicolì V, Stoccoro A, Marino R, Rea F, Corsi M, Chiumiento M, Caldi F, Guglielmi G, Silvestri R, Foddis R, Coppedè F, Buselli R / Stress (Amsterdam, Netherlands) / 2025 / DOI / PubMed

抄訳:

グルココルチコイド経路に影響を与えるエピジェネティックな変化は、うつ病のバイオマーカーとして研究されています。本横断研究では、職業性ストレスにさらされたうつ病患者におけるグルココルチコイド受容体(GR)遺伝子プロモーターのメチル化レベルを評価しました。70人のうつ病患者と40人の健康な対照群において、メチル化感受性高解像度融解(MS-HRM)法を用いてNR3C1プロモーターのメチル化レベルを測定しました。職業性ストレスはJob Content Questionnaire(JCQ)を用いて評価されました。結果、うつ病患者は対照群よりもNR3C1プロモーターのメチル化レベルが有意に高く(p = 0.0001)、多重回帰分析によりNR3C1メチル化レベルとうつ病診断との間に有意な正の関連が見られました(r = 0.507, p < 0.0001)。一方、職業性ストレスとは負の関連が見られました(r = -0.218, p = 0.03)。過去のトラウマの有無によるメチル化レベルの差は見られず、トラウマの履歴は独立した予測因子ではありませんでした。視床下部-下垂体-副腎系の調節不全は、職業性ストレス関連障害の病態生理において重要な役割を果たす可能性があります。職業性ストレスは、精神病理への脆弱性に寄与するエピジェネティックなメカニズムに独立して影響を与える可能性があります。ストレス関連障害の診断と予防のためのバイオマーカーに焦点を当てたさらなる研究が必要です。

PECO:

  • P(対象): 職業性ストレスにさらされたうつ病患者
  • E(暴露): グルココルチコイド受容体遺伝子プロモーターのメチル化レベル
  • C(比較): 健康な対照群
  • O(結果): メチル化レベルの比較と職業性ストレスの影響

一言: この研究は、職業性ストレスにさらされたうつ病患者におけるグルココルチコイド受容体遺伝子のプロモーター領域のメチル化レベルを評価しました。結果、うつ病患者は健康な対照群よりもメチル化レベルが高く、職業性ストレスがエピジェネティックな変化に寄与する可能性が示唆されました。

エビデンスレベル: 7/10
評価理由: この研究は横断的デザインであり、因果関係を明確にするには限界がありますが、職業性ストレスとうつ病の関連を示す重要なデータを提供しています。サンプルサイズも適切です。

臨床メモ(活用点・注意点・外的妥当性・日本の臨床との整合)

この研究は、職業性ストレスがうつ病のエピジェネティックな変化に寄与する可能性を示唆しています。特に、グルココルチコイド受容体遺伝子のプロモーター領域のメチル化が、うつ病患者で高いことが確認されました。職業性ストレスがエピジェネティックなメカニズムを通じて精神病理に影響を与える可能性があるため、職場でのストレス管理が重要です。ただし、横断研究であるため、因果関係の解明にはさらなる研究が必要です。日本の臨床現場でも、職業性ストレスの評価と管理がうつ病の予防や治療において重要な要素となるでしょう。

(FAQ)

Q. 職業性ストレスはどのように健康に影響を与えるのですか?
A. 職業性ストレスは、心身の健康にさまざまな影響を与える可能性があります。ストレスが長期間続くと、心血管疾患や精神疾患のリスクが増加することが知られています。日本のガイドラインでも、職場でのストレス管理が推奨されています。

Q. うつ病の予防にはどのような方法がありますか?
A. うつ病の予防には、適切なストレス管理、規則正しい生活習慣、社会的サポートの活用が重要です。日本うつ病学会のガイドラインでは、早期の介入とサポートが推奨されています。症状が現れた場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。


本記事は一般情報であり、個別の診断・治療を置き換えるものではありません。
精神保健指定医 児玉啓輔(監修者プロフィール

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参考リンク・関連資料