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(新着論文)神経発達障害児のホルモン異常に関するメタ解析

原題: Dysregulation of Thyroid, Growth, and Appetite Hormones in Children and Adolescents With Neurodevelopmental Disorders: A Meta-analysis.
Wang H, Huang K, Piao L, Xue X / Journal of integrative neuroscience / 2025 / DOI / PubMed

抄訳:
神経発達障害(NDDs)は、注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、チック障害を含み、幼少期や青年期に発症し、生涯にわたり生活の質に影響を与えます。本研究は、NDDsを持つ子どもと青年における甲状腺ホルモン、成長ホルモン、食欲ホルモンのレベルを健康な対照群と比較するためのメタ解析を行いました。2025年3月1日以前に発表された関連文献を5つのオンラインデータベースから検索し、54の研究を含めました。結果として、NDDsを持つ子どもでは、FT3、TT3、TPO-Abが有意に増加し、FT4、TT4、TSHが有意に減少していました。これらの変化は主にADHD患者で観察され、TPO-Abの増加はASD患者に限られていました。また、食欲ホルモンのレプチンは、男性のNDDs患者とASD患者で有意に増加していましたが、ADHD患者では増加していませんでした。成長因子IGF-1は、ASD患者の脳脊髄液でのみ有意に低下していました。これらの結果から、甲状腺ホルモンとIGF-1/レプチンは、ADHDとASDの診断に有望なバイオマーカーとなる可能性が示唆されました。

PECO:

  • P(対象): 神経発達障害を持つ子どもと青年(ADHD、ASD、チック障害を含む)
  • E(暴露): 甲状腺ホルモン、成長ホルモン、食欲ホルモンの異常
  • C(比較): 健康な対照群
  • O(結果): ホルモンレベルの変化(FT3、TT3、TPO-Ab、FT4、TT4、TSH、レプチン、IGF-1)

一言: 神経発達障害を持つ子どもと青年における甲状腺ホルモン、成長ホルモン、食欲ホルモンの異常を調査したメタ解析です。特にADHDとASDで顕著なホルモン変化が見られ、これらのホルモンが診断のバイオマーカーとなる可能性が示唆されました。

確かさ(GRADE): 中等度
理由: この研究は54の研究を基にしたメタ解析であり、結果の一貫性が高いですが、観察研究であるため因果関係の確定には限界があります。

臨床メモ(活用点・注意点・外的妥当性・日本の臨床との整合)

このメタ解析は、神経発達障害を持つ子どもと青年における甲状腺ホルモン、成長ホルモン、食欲ホルモンの異常を示しています。特にADHDとASDにおけるホルモン変化が顕著であり、これらのホルモンが診断のバイオマーカーとして有望である可能性が示唆されました。しかし、これらのホルモン異常が直接的に症状や疾患の進行にどのように影響するかは明確ではなく、さらなる研究が必要です。日本の臨床現場においても、これらのホルモンレベルの測定は、現時点では補助的な役割に留まると考えられます。医療従事者は、患者の個別の状況に応じて、これらのホルモン測定をどのように活用するかを慎重に判断する必要があります。

(FAQ)

Q. 神経発達障害とは何ですか?
A. 神経発達障害は、発達過程における神経系の異常により、行動や認知機能に影響を及ぼす障害の総称です。代表的なものに注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)があります。これらの障害は幼少期に発症し、適切な診断と支援が重要です。診断は専門医による評価が必要で、早期の介入が推奨されます。

Q. 甲状腺ホルモンの異常はどのように診断されますか?
A. 甲状腺ホルモンの異常は、血液検査によって診断されます。主にFT3、FT4、TSHの値を測定し、基準値と比較します。異常が認められた場合、内分泌専門医による詳細な評価が行われます。甲状腺機能の異常は、全身の代謝に影響を与えるため、早期の診断と治療が重要です。


本記事は一般情報であり、個別の診断・治療を置き換えるものではありません。
精神保健指定医 児玉啓輔(監修者プロフィール

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参考リンク・関連資料