最新の研究から、外来の皆さまに役立つ知見を簡潔にご紹介します。
(新着論文)退役軍人におけるアルコール使用障害と不眠症の診断率の変化
原題: Diagnostic Rates of Alcohol Use Disorder, Insomnia Disorder, and Their Co-Occurrence in the Veterans Health Administration From 2018 to 2023.
Bachrach RL, Quinn DA, Boudreaux-Kelly M, Mitchell SR, Atchison K, Tighe CA / Journal of primary care & community health / 2025 / DOI / PubMed
抄訳:
本研究は、退役軍人健康管理局(VA)のデータを用いて、2018年から2023年にかけてのアルコール使用障害と不眠症の診断率を調査しました。対象は退役軍人健康管理局ケアを利用した退役軍人で、サンプル数は約560万から580万人です。ICD-10コードを用いてアルコール使用障害と不眠症を特定し、各年の診断率を算出しました。結果は性別、年齢、人種、民族によって層別化されました。混合モデルを用いて診断率の時間的変化を検討し、2018年から2023年までの診断率の相対的変化を計算しました。アルコール使用障害の診断率は約5%で安定していましたが、不眠症の診断率は6%から8%に増加しました。アルコール使用障害と不眠症の共存率は2018年から2019年で0.87%、2022年から2023年で1.12%でした。女性退役軍人では、すべての人種・民族グループでアルコール使用障害の診断率が有意に増加し、30歳から49歳および65歳以上の年齢層で特に顕著でした。男性では診断率の変化はほとんど見られませんでした。不眠症の診断率とその共存率は、ほとんどの男性と女性退役軍人で増加しました。アルコール使用障害と不眠症の健康への悪影響を受けやすい人々(例:女性や高齢者)の診断率が増加しており、アクセス改善の努力が診断率の増加を考慮しない場合、健康への悪影響が拡大する可能性があります。
PICO:
- P(対象): 2018年から2023年に退役軍人健康管理局ケアを利用した退役軍人(約560万から580万人)
- I(介入): ICD-10コードを用いたアルコール使用障害と不眠症の診断
- C(比較): 診断率の時間的変化を評価するための基準年(2018年)
- O(結果): 診断率の変化
一言: 本研究は、退役軍人のアルコール使用障害と不眠症の診断率を2018年から2023年にかけて調査しました。アルコール使用障害の診断率は約5%で安定していましたが、不眠症の診断率は増加傾向にありました。特に女性や高齢者での診断率が上昇しており、これらの健康問題への対策が求められます。
確かさ(GRADE): 中等度
理由: この研究は大規模なサンプルを用いており、診断率の変化を詳細に分析していますが、観察研究であるため因果関係の確証には限界があります。
臨床メモ(活用点・注意点・外的妥当性・日本の臨床との整合)
本研究は、退役軍人におけるアルコール使用障害と不眠症の診断率の変化を示しており、特に女性や高齢者での診断率の上昇が確認されました。これらの結果は、日本の臨床現場においても、同様の傾向が見られる可能性があるため、注意が必要です。特に、女性や高齢者に対する診断と治療のアクセス改善が重要です。また、アルコール使用障害と不眠症の共存が健康に与える影響を考慮し、包括的なケアが求められます。診断率の増加は、これらの健康問題に対する意識の向上や診断技術の進歩を反映している可能性がありますが、過剰診断のリスクも考慮する必要があります。日本においても、これらの問題に対する適切な対応が求められます。
(FAQ)
Q. アルコール使用障害とは何ですか?
A. アルコール使用障害は、アルコールの使用が制御できず、健康や日常生活に悪影響を及ぼす状態を指します。背景にトラウマの存在がある際にはトラウマの治療がアルコール使用障害の治療奏功に寄与する場合があります。診断には、DSM-5などの基準が用いられ、治療にはカウンセリングや薬物療法が含まれます。早期の診断と治療が重要であり、専門医の診察を受けることが推奨されます。
Q. 不眠症の一般的な治療法は何ですか?
A. 不眠症の治療には、睡眠衛生の改善、認知行動療法、薬物療法などがあります。治療は個々の症状や原因に応じて選択され、医師と相談しながら進めることが重要です。慢性的な不眠症の場合、専門医の診察を受けることが推奨されます。
本記事は一般情報であり、個別の診断・治療を置き換えるものではありません。
精神保健指定医 児玉啓輔(監修者プロフィール)
患者さんへのメッセージ
不安や悩みを抱えている方は開院後お気軽にご相談ください。当院スタッフが丁寧にサポートいたします。