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(新着論文)北アフリカ・中東におけるいじめ被害と抑うつ・不安障害の関連性
原題: Depressive and anxiety disorders linked to bullying victimization in North Africa and the Middle East: An analysis based on sex and location.
Amiri S, Kazemi SMH / Medicine / 2025 / DOI / PubMed
抄訳:
この研究は、北アフリカと中東地域における抑うつ障害と不安障害の有病率および障害の影響を調査しました。特に、いじめ被害による抑うつ障害と不安障害に焦点を当てました。1990年から2021年までのデータを基に、いじめ被害による抑うつ障害と不安障害の年齢標準化障害調整生命年を推定しました。2021年には、抑うつ障害の有病率は3,100万人、不安障害は3,800万人に達しました。女性の方が抑うつ障害の有病率と障害調整生命年が高いことが示されましたが、いじめ被害による障害調整生命年は男性でより大きな負担となっています。2019年のCOVID-19パンデミックと同時期に、抑うつ障害と不安障害の有病率が急増しました。いじめ被害の増加が、これらの精神障害の増加に寄与していると考えられます。したがって、国レベルでの精神障害のスクリーニングと、いじめ被害に対処するための子どもや青年への教育が必要です。
PECO:
- P(対象): 北アフリカと中東地域の全年齢層の住民
- E(暴露): いじめ被害の経験(1990年から2021年のデータに基づく)
- C(比較): いじめ被害を受けていない住民
- O(結果): 抑うつ障害と不安障害の有病率と障害調整生命年
一言: この研究は、北アフリカと中東地域でのいじめ被害が抑うつ障害や不安障害に与える影響を調査しました。2021年には、抑うつ障害の有病率が3,100万人、不安障害が3,800万人に達し、特に女性で高いことが示されました。いじめ被害による障害調整生命年は男性でより大きな負担となっています。
確かさ(GRADE): 中等度
理由: この研究は観察研究であり、因果関係の確立には限界がありますが、データの一貫性と地域の広範なカバレッジにより、結果の信頼性は中程度と評価されます。
研究の信頼性(ROBINS-I(非ランダム化研究)): やや懸念
- 交絡: やや懸念
- 参加者の選び方: 低い(大きな問題なし)
- 介入の分類: 低い(大きな問題なし)
- 予定した介入からのずれ: 低い(大きな問題なし)
- 欠測(全般): やや懸念
- アウトカム測定: 低い(大きな問題なし)
- 報告された結果の選び方: やや懸念
解説: この研究は観察研究であり、いくつかのバイアスの可能性がありますが、データの一貫性と地域の広範なカバレッジにより、結果の信頼性は中程度と評価されます。
臨床メモ(活用点・注意点・外的妥当性・日本の臨床との整合)
この研究は、北アフリカと中東地域におけるいじめ被害が抑うつ障害や不安障害に与える影響を示しています。特に、いじめ被害が男性においてより大きな障害調整生命年の負担をもたらしていることが示されています。日本の臨床現場においても、いじめ被害が精神健康に与える影響は重要な課題であり、早期の介入と支援が求められます。日本では、学校や地域社会でのいじめ防止プログラムが進められていますが、精神障害のスクリーニングや支援体制の強化がさらに必要です。また、COVID-19パンデミックによる精神健康への影響も考慮し、包括的なアプローチが求められます。いじめ被害者への適切な支援と教育が、精神障害の予防に寄与する可能性があります。
(FAQ)
Q. いじめ被害はどのように精神健康に影響を与えるのですか?
A. いじめ被害は、抑うつや不安障害のリスクを高めることがあります。ガイドラインでは、いじめ被害者に対する早期の心理的支援が推奨されています。特に、学校や家庭でのサポートが重要です。いじめが疑われる場合は、専門家に相談することが推奨されます。
Q. 抑うつ障害や不安障害の予防にはどのような方法がありますか?
A. 抑うつ障害や不安障害の予防には、ストレス管理や社会的支援が重要です。一般的なガイドラインでは、定期的な運動や健康的な食生活、十分な睡眠が推奨されています。症状が続く場合は、医療機関での相談が必要です。
Q. 障害調整生命年とはなんですか?
A. 病気や障害、早死にによって失われた健康寿命を数値化した指標です。これは「早死にによって失われた年数」と「障害によって健康でない生活を強いられた年数」を合算したもので、単一の指標で疾病負荷を測ることができます。世界保健機関(WHO)などが公衆衛生政策の立案に利用しています。
本記事は一般情報であり、個別の診断・治療を置き換えるものではありません。
精神保健指定医 児玉啓輔(監修者プロフィール)