最新の研究から、外来の皆さまに役立つ知見を簡潔にご紹介します。
(新着論文)パニック障害に対するモバイルアプリガイド曝露療法の効果
原題: Mobile App-Guided Exposure Therapy for Panic Disorder With and Without Agoraphobia: Randomized Controlled Trial.
Guth M, Wiebe A, Ekhlas-Schumann M, Rodenjohann A, Rohlfsen F, Buchholz J, Selaskowski B, Philipsen A, Braun N / Journal of medical Internet research / 2025 / DOI / PubMed
抄訳:
このランダム化比較試験は、パニック障害および広場恐怖症に対するモバイルアプリを用いた曝露療法の効果を検証しました。111名の成人を曝露療法アプリ、瞑想アプリ(アクティブコントロール)、待機リスト(パッシブコントロール)の3群にランダムに割り付けました。主要評価項目は自己報告による症状の重症度で、パニックおよび広場恐怖症スケールを用いて評価しました。曝露療法アプリ群は、待機リスト群と比較して治療後およびフォローアップ時に症状の重症度が有意に低下しました(治療後: P=.04, フォローアップ: P=.04)。また、フォローアップ時にはうつ症状および心理的生活の質の改善も見られました(うつ症状: P=.007, 生活の質: P=.01)。曝露療法アプリと瞑想アプリの間での症状の重症度に有意差は見られませんでした。曝露療法アプリ群の35%が治療後に症状の改善を示しました。5週間後のドロップアウト率は14%で、有害事象は報告されませんでした。これらの結果から、アプリガイド曝露療法は既存の心理療法および薬物療法に加え、有用な治療オプションとなる可能性がありますが、瞑想アプリとの優位性は不明です。
PICO:
- P(対象): パニック障害および広場恐怖症を有する成人111名
- I(介入): モバイルアプリを用いた自己指導型曝露療法
- C(比較): 瞑想アプリ(アクティブコントロール)および待機リスト(パッシブコントロール)
- O(結果): パニックおよび広場恐怖症の症状重症度、うつ症状、心理的生活の質
一言: この研究は、パニック障害および広場恐怖症に対するモバイルアプリを用いた曝露療法の効果を検証しました。曝露療法アプリは、待機リストと比較して症状の改善に有効であることが示されましたが、瞑想アプリとの優位性は明確ではありませんでした。
確かさ(GRADE): 中等度
理由: この研究はランダム化比較試験であり、結果の信頼性は比較的高いですが、サンプルサイズが限られているため、さらなる研究が必要です。
研究の信頼性(RoB 2(ランダム化試験)): 低い(大きな問題なし)
- 参加者の割付方法: 低い(大きな問題なし)
- 予定した介入からのずれ: 低い(大きな問題なし)
- アウトカムの欠測: 低い(大きな問題なし)
- 結果の測り方: 低い(大きな問題なし)
- 報告された結果の選び方: 低い(大きな問題なし)
解説: この研究はランダム化比較試験であり、バイアスのリスクは低いと評価されています。結果は信頼できると考えられますが、さらなる研究が必要です。
臨床メモ(活用点・注意点・外的妥当性・日本の臨床との整合)
この研究は、パニック障害および広場恐怖症に対するモバイルアプリを用いた曝露療法の有効性を示しています。曝露療法アプリは、待機リストと比較して症状の改善に有効であることが示されましたが、瞑想アプリとの優位性は明確ではありませんでした。日本の臨床現場での適用にあたっては、患者の個別の状況やニーズに応じた適切な指導が必要です。また、アプリを用いた治療は、従来の心理療法や薬物療法を補完する形で利用されるべきです。アプリの使用にあたっては、患者の安全性を確保するため、医療専門家の監督の下で行うことが推奨されます。さらに、アプリの効果を最大限に引き出すためには、患者の積極的な参加と継続的な使用が重要です。今後の研究では、より大規模なサンプルサイズでの検証が期待されます。
(FAQ)
Q. パニック障害に対する曝露療法とは何ですか?
A. 曝露療法は、恐怖や不安を引き起こす状況や刺激に段階的に直面することで、恐怖反応を減少させる治療法です。日本のガイドラインでは、パニック障害の治療において有効とされています。曝露療法は専門家の指導の下で行われることが推奨されます。
Q. モバイルアプリを用いた心理療法は安全ですか?
A. モバイルアプリを用いた心理療法は、適切に設計され、医療専門家の監督の下で使用される場合、安全性が高いとされています。国際的なガイドラインでは、アプリを補助的な治療手段として利用することが推奨されています。ただし、症状が重い場合や不安が強い場合は、専門医の診断と治療を受けることが重要です。
本記事は一般情報であり、個別の診断・治療を置き換えるものではありません。
精神保健指定医 児玉啓輔(監修者プロフィール)
患者さんへのメッセージ
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