（新着論文）成人女性における対人トラウマの発達期と恐怖調節の関連

2025年11月20日

症状・疾患の解説

最新の研究から、外来の皆さまに役立つ知見を簡潔にご紹介します。

（新着論文）初回対人トラウマの発生時期が成人女性の恐怖調節に与える影響

原題: The role of the first interpersonal trauma exposure’s developmental period on fear regulation processes among adult women.
Rudd E, Truong C, Bilodeau-Houle A, Beaudin M, Bouchard V, Marin MF / European journal of psychotraumatology / 2025 / DOI / PubMed

抄訳:
対人トラウマは、心的外傷後ストレス障害（PTSD）の症状発現リスクを高めることが知られています。PTSDは特に女性に多く、恐怖の増大とその調節の困難さが特徴です。本研究では、初めての対人トラウマが発生した発達期（幼少期、思春期、成人期）が、成人女性の恐怖学習と調節にどのように影響するかを調査しました。95名の女性を対象に、恐怖条件付けと消去プロトコルを用いて生理的恐怖反応を測定しました。結果、恐怖条件付けと消去の段階では群間差は見られませんでしたが、消去記憶の早期段階で、思春期や成人期にトラウマを経験した女性は、幼少期に経験した女性よりも強い皮膚電気反応を示しました。この結果は、トラウマの発生時期が成人期の恐怖調節に影響を与えることを示唆しており、特定の介入を考える際の脆弱性の窓口を示しています。

PECO:

P（対象）: 対人トラウマの歴史を持つ成人女性
E（暴露）: 初回対人トラウマの発生時期（幼少期、思春期、成人期）
C（比較）: 異なる発達期におけるトラウマ未経験者
O（結果）: 恐怖条件付けと消去プロトコルによる皮膚電気反応

一言: この研究は、初めての対人トラウマが発生した時期が成人女性の恐怖調節にどのように影響するかを調査しました。結果、思春期や成人期にトラウマを経験した女性は、幼少期に経験した女性よりも恐怖の記憶を思い出す際に強い生理的反応を示しました。

確かさ（GRADE）: 中等度
理由: この研究は観察研究であり、因果関係を直接証明するものではありませんが、結果は一貫しており、トラウマの発生時期が恐怖調節に影響を与える可能性を示唆しています。

研究の信頼性（ROBINS-I（非ランダム化研究））: やや懸念

交絡: やや懸念
参加者の選び方: 低い（大きな問題なし）
介入の分類: 低い（大きな問題なし）
予定した介入からのずれ: 低い（大きな問題なし）
欠測（全般）: やや懸念
アウトカム測定: 低い（大きな問題なし）
報告された結果の選び方: やや懸念

解説: この研究は観察的であり、因果関係を確立するには限界がありますが、結果は一貫しており、トラウマの発生時期が恐怖調節に影響を与える可能性を示しています。

臨床メモ（活用点・注意点・外的妥当性・日本の臨床との整合）

この研究は、初回の対人トラウマが発生した時期が成人女性の恐怖調節に影響を与える可能性を示しています。特に思春期や成人期にトラウマを経験した女性は、幼少期に経験した女性よりも恐怖の記憶を思い出す際に強い生理的反応を示しました。これは、特定の発達期が脆弱性となり得ることを示唆しており、介入のタイミングや方法を考える上で重要な情報となります。ただし、この研究は観察研究であり、因果関係を直接証明するものではないため、臨床での適用には慎重な検討が必要です。日本の臨床現場においても、トラウマの発生時期を考慮した心理的支援や介入が有効である可能性がありますが、個々の患者の背景や状況を十分に考慮することが重要です。

（FAQ）

Q. PTSDとは何ですか？
A. PTSD（心的外傷後ストレス障害）は、トラウマティックな出来事を経験した後に発症する精神的な障害です。症状には、フラッシュバック、悪夢、過度の警戒心、感情の麻痺などが含まれます。治療には、認知行動療法や薬物療法が一般的に用いられます。症状が続く場合は、専門医の診断と治療を受けることが推奨されます。

Q. トラウマの影響はどのようにして軽減できますか？
A. トラウマの影響を軽減するためには、心理療法やサポートグループが有効です。認知行動療法やEMDR（眼球運動による脱感作と再処理法）が特に効果的とされています。早期の介入が重要であり、症状が現れた場合は専門家に相談することが推奨されます。