最新の研究から、外来の皆さまに役立つ知見を簡潔にご紹介します。
(新着論文)トルコ地震被災者への遠隔認知処理療法の試験
原題: Telehealth-Delivered Cognitive Processing Therapy for Earthquake Survivors in Türkiye: A Pilot Randomised Controlled Trial.
Acar B, Moring J, Kurt G, Orsel S, Acartürk C / Clinical psychology & psychotherapy / 2025 / DOI / PubMed
抄訳:
自然災害は低・中所得国の精神健康に大きな影響を与え、専門的なトラウマ治療へのアクセスが限られています。本研究は、トルコの地震被災者に対する遠隔認知処理療法の実施可能性、受容性、および予備的効果を評価するパイロットランダム化比較試験です。36名の参加者が遠隔認知処理療法群または通常治療群にランダムに割り当てられました。評価項目は、PTSD(PCL-5)、うつ病(PHQ-9)、不安(GAD-7)、心理的苦痛(K10)、および幸福感(WHO-5)で、ベースライン、治療後、1か月後に評価されました。CPTは高い治療完了率(88.8%)を示し、1か月後のフォローアップでPTSD症状の大幅な改善が見られました(調整平均差=-21.812, 95% CI -29.07, -14.54, p<0.001, d=1.63)。また、うつ病、不安、心理的苦痛の軽減および幸福感の向上も確認されました。これらの結果は、遠隔認知処理療法が低・中所得国における災害後の精神健康ケアにおいて実施可能で受容可能な効果的な介入であることを示唆しています。本研究は、低所得国及び中所得国における災害後ケアのために認知処理療法を適応し評価した初の試験です。
PICO:
- P(対象): トルコの地震被災者で、PTSD症状が高い成人36名
- I(介入): 遠隔で提供される認知処理療法
- C(比較): 通常の治療
- O(結果): PTSD症状、うつ病、不安、心理的苦痛、幸福感の改善
一言: この研究は、トルコの地震被災者に対する遠隔認知処理療法の実施可能性と効果を評価しました。結果、CPTはPTSD症状の改善に効果的であり、うつ病や不安、心理的苦痛の軽減にも寄与しました。
確かさ(GRADE): 中等度
理由: この研究はパイロット試験であり、参加者数が限られているため、結果の一般化には慎重を要します。しかし、効果の大きさは有望です。
研究の信頼性(RoB 2(ランダム化試験)): やや懸念
- 参加者の割付方法: 低い(大きな問題なし)
- 予定した介入からのずれ: やや懸念
- アウトカムの欠測: 低い(大きな問題なし)
- 結果の測り方: 低い(大きな問題なし)
- 報告された結果の選び方: やや懸念
解説: ランダム化は適切に行われましたが、報告された結果の選択に一部懸念があります。全体として、結果は信頼できるが、さらなる研究が必要です。
臨床メモ(活用点・注意点・外的妥当性・日本の臨床との整合)
この研究は、トルコの地震被災者に対する遠隔認知処理療法の有効性を示しています。認知処理療法はPTSD症状の改善に効果的であり、うつ病や不安、心理的苦痛の軽減にも寄与しました。特に、遠隔での実施が可能であるため、アクセスが限られた地域でも利用しやすい点が重要です。しかし、パイロット試験であるため、結果の一般化には注意が必要です。日本の臨床現場でも、災害後の精神健康ケアとして認知処理療法の導入を検討する価値がありますが、文化的背景や言語の違いを考慮した適応が必要です。さらなる大規模な研究が望まれます。
(FAQ)
Q. 認知処理療法(CPT)はどのような治療法ですか?
A. 認知処理療法は、PTSDやトラウマ関連障害に対する心理療法の一つです。患者がトラウマ体験に関連する否定的な思考パターンを認識し、修正することを目指します。日本でもPTSD治療ガイドラインで推奨されており、特にトラウマ体験が原因の心理的問題に効果的です。
Q. 遠隔医療での精神療法は安全ですか?
A. 遠隔医療での精神療法は、適切に行われれば安全で効果的です。特にアクセスが難しい地域での治療提供に有用です。日本の遠隔医療ガイドラインでも、患者のプライバシー保護や技術的な安全性が確保されていることが求められています。症状が重い場合や緊急時には、対面での診療が推奨されます。
本記事は一般情報であり、個別の診断・治療を置き換えるものではありません。
精神保健指定医 児玉啓輔(監修者プロフィール)
患者さんへのメッセージ
不安や悩みを抱えている方は開院後お気軽にご相談ください。当院スタッフが丁寧にサポートいたします。