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(新着論文)成人の幼少期トラウマに対する段階的治療とトラウマ焦点治療の比較

原題: Phase-Based Versus Trauma-Focused Therapy for Adult Survivors of Childhood Trauma: A Systematic Review and Meta-Analysis.
Svircevic CS, Berle D / The Journal of nervous and mental disease / 2025 / DOI / PubMed

抄訳:
幼少期にトラウマを経験した成人に対する治療法として、段階的治療がトラウマ焦点治療に比べてどの程度の価値を持つかについて議論があります。本研究は、段階的治療の有効性を検討するために系統的レビューを行いました。PubMed、Embase、PTSDpubs、PsycINFOを用いて、幼少期トラウマを持つ成人のPTSD症状に対する段階的介入のランダム化比較試験を特定しました。合計356名の参加者を含む4つの研究が基準を満たしました。ランダム効果メタ解析により、段階的治療がトラウマ焦点治療に対して小さな効果を示すことが分かりました(Hedges g=0.17; SE=0.12)。治療完遂率に関しては、段階的治療とトラウマ焦点治療の間に有意な差は見られませんでした(OR=0.84, 95% CI: 0.41-1.72)。本レビューでは、段階的治療がトラウマ焦点治療単独に比べて優位性を示す証拠は見つかりませんでした。

PICO:

  • P(対象): 幼少期にトラウマを経験した成人で、PTSD症状を持つ患者。
  • I(介入): 段階的治療アプローチを用いた介入。
  • C(比較): トラウマ焦点治療を用いた介入。
  • O(結果): PTSD症状の改善度と治療完遂率。

一言: 幼少期にトラウマを経験した成人に対する段階的治療とトラウマ焦点治療の効果を比較した系統的レビューとメタ解析です。段階的治療はトラウマ焦点治療に対して小さな効果を示しましたが、治療完遂率に有意な差は見られませんでした。

確かさ(GRADE): 中等度

理由: 研究数が限られており、結果のばらつきがあるため、確信度は中程度です。さらなる研究が必要です。

研究の信頼性(RoB 2(ランダム化試験)): やや懸念

  • 参加者の割付方法: 低い(大きな問題なし)
  • 予定した介入からのずれ: やや懸念
  • アウトカムの欠測: 低い(大きな問題なし)
  • 結果の測り方: やや懸念
  • 報告された結果の選び方: 低い(大きな問題なし)

解説: ランダム化プロセスは適切でしたが、介入からの逸脱や結果の測定に若干の懸念があります。結果の信頼性は中程度です。

臨床メモ(活用点・注意点・外的妥当性・日本の臨床との整合)

本研究は、幼少期にトラウマを経験した成人に対する段階的治療とトラウマ焦点治療の効果を比較しました。段階的治療はトラウマ焦点治療に対して小さな効果を示しましたが、治療完遂率に有意な差は見られませんでした。日本の臨床現場では、PTSD治療において段階的治療がどの程度有効かを判断するためには、さらなる研究が必要です。特に、文化的背景や医療システムの違いが治療効果に与える影響を考慮する必要があります。段階的治療が有効であるかどうかは、患者の症状の重症度や治療への反応に依存する可能性があります。したがって、治療選択においては、現段階ではトラウマ焦点治療を優先するべきだと考えられます。

(FAQ)

Q. PTSDの治療にはどのような方法がありますか?
A. PTSDの治療には、認知行動療法(CBT)、眼球運動による脱感作と再処理法(EMDR)、薬物療法などがあります。これらは、国際的なガイドラインで推奨されており、患者の症状やニーズに応じて選択されます。治療を受ける際は、専門医に相談し、適切な治療法を選ぶことが重要です。

Q. 段階的治療とは何ですか?
A. 段階的治療は、治療を段階的に進めるアプローチで、通常は安全性の確保、トラウマ処理、再統合の3段階で構成されます。これは、患者の準備状態に応じて治療を進めるため、特に複雑なPTSDに対して有効とされています。治療の選択は、専門医と相談の上で行うことが推奨されます。


本記事は一般情報であり、個別の診断・治療を置き換えるものではありません。
精神保健指定医 児玉啓輔(監修者プロフィール

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参考リンク・関連資料