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(新着論文)大うつ病性障害に対する在宅tDCSの維持療法効果

原題: The Portable Transcranial Electrical Stimulation and Internet-Based Behavioral Therapy for Major Depression Study (PSYLECT): Results of the maintenance phase.
Aparicio LVM, Luethi MS, Borrione L, Moran NKS, Cavendish BA, Silva VA, Valiengo L, Goerigk S, Padberg F, Razza LB, Vidal KSM, Brunoni AR / Journal of affective disorders / 2026 / DOI / PubMed

抄訳:
経頭蓋直流電流刺激は抗うつ効果が示されていますが、長期維持の最適な戦略は未解明です。クリニックベースの維持経頭蓋直流電流刺激は遵守や物流に課題がありますが、在宅プロトコルはアクセス性を向上させ、離脱を防ぐ可能性があります。本研究は、PSYLECT試験の維持期における大うつ病性障害患者の再発予防に対する在宅経頭蓋直流電流刺激の有効性と安全性を評価しました。ランダム化比較試験(第I相、n=210)とオープンラベルクロスオーバー(第II相)に続き、反応者(ハミルトンうつ病評価尺度スコアが50%以上改善)が第III相に登録されました。第III相では、6ヶ月間のオープンラベル継続プロトコルで、週2回の在宅経頭蓋直流電流刺激セッション(2mA、30分、F3-F4モンタージュ)をデジタル行動療法(BT)と併用または単独で実施しました。主要アウトカムは再発までの時間で、Kaplan-Meier生存曲線を用いて分析しました。71名の患者(平均年齢37.9±9.0歳、89%女性)が第III相に含まれました。24週時点で75%(95% CI, 64.2-82.8)が再発または中止せず、再発なしの生存率は82%でした。6名(8.5%)が再発し、11名(15.5%)が中止しました。再発の有意な予測因子は特定されず、BTは生存率を有意に向上させませんでした。副作用は主に軽度で、一過性の頭皮のかゆみ(21%)と頭痛(18%)が最も一般的でしたが、6ヶ月時点で40%の参加者が副作用を報告しませんでした。在宅維持経頭蓋直流電流刺激は安全で実用的であり、クリニックベースのプロトコルと同等の臨床的に有意な再発予防をもたらしました。そのスケーラビリティ、コスト効率、アクセスのしやすさの利点は、大うつ病性障害の維持戦略としての可能性を支持します。

PICO:

  • P(対象): 大うつ病性障害患者で、ハミルトンうつ病評価尺度スコアが50%以上改善した者
  • I(介入): 在宅での経頭蓋直流電流刺激セッション(2mA、30分、F3-F4モンタージュ)、週2回
  • C(比較): デジタル行動療法併用または単独
  • O(結果): 再発までの時間、再発率、副作用の発生率

一言: 大うつ病性障害患者における在宅での経頭蓋直流電流刺激は、再発予防において安全で実用的であることが示されました。特に、クリニックベースのプロトコルと比較して、スケーラビリティやコスト効率、アクセスのしやすさにおいて利点があります。

確かさ(GRADE): 中等度

理由: この研究はランダム化比較試験に基づいており、結果の一貫性が高いですが、サンプルサイズが限られているため、確信度は中程度としました。

研究の信頼性(RoB 2(ランダム化試験)): 低い(大きな問題なし)

  • 参加者の割付方法: 低い(大きな問題なし)
  • 予定した介入からのずれ: 低い(大きな問題なし)
  • アウトカムの欠測: 低い(大きな問題なし)
  • 結果の測り方: 低い(大きな問題なし)
  • 報告された結果の選び方: 低い(大きな問題なし)

解説: この研究はランダム化と適切なデータ管理が行われており、結果の信頼性は高いと考えられます。したがって、結果に基づく臨床判断は比較的安全です。

臨床メモ(活用点・注意点・外的妥当性・日本の臨床との整合)

この研究は、大うつ病性障害患者に対する在宅での経頭蓋直流電流刺激の有効性と安全性を評価したものです。結果として、在宅経頭蓋直流電流刺激はクリニックベースのプロトコルと同等の再発予防効果を示し、特にスケーラビリティやコスト効率、アクセスのしやすさにおいて利点があります。日本の臨床現場においても、患者の負担を軽減し、治療の継続性を高める手段として有望です。ただし、デジタル行動療法の併用が生存率を有意に向上させなかった点には注意が必要です。副作用は主に軽度であり、患者の安全性は高いと考えられますが、個々の患者の状態に応じた適切なモニタリングが求められます。今後の研究では、より大規模なサンプルサイズでの検証が望まれます。

(FAQ)

Q. 経頭蓋直流電流刺激(tDCS)はどのようにうつ病に効果がありますか?
A. tDCSは脳の特定の部位に微弱な電流を流すことで、神経活動を調整し、うつ病症状を軽減することが期待されています。日本うつ病学会のガイドラインでは、tDCSは薬物療法や心理療法と併用されることが多いとされています。適用は医師の判断に基づき、症状の重さや他の治療法との組み合わせを考慮して行われます。

Q. 在宅での経頭蓋直流電流刺激治療は安全ですか?
A. 在宅での経頭蓋直流電流刺激治療は、適切な指導とモニタリングの下で行われる限り、安全性が高いとされています。副作用は軽度で一過性のものが多く、頭皮のかゆみや頭痛が報告されています。しかしこの治療は日本では今のところ認可されていません。


本記事は一般情報であり、個別の診断・治療を置き換えるものではありません。
精神保健指定医 児玉啓輔(監修者プロフィール

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参考リンク・関連資料