今日から活かせる最新知見を4本に厳選。運動療法、デジタル介入(CBT/マインドフルネス)、行動活性化、初回エピソードの初期治療についてまとめました。


1)うつ病に対する運動療法の効果:ランダム化比較試験のシステマティックレビューとネットワーク・メタ解析

原題:Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials.
Noetel M, et al. / BMJ / 2024 / DOI / PubMed

要約:218試験・約1.4万人の統合解析で、運動はうつ症状を全体として中等度に改善。とくに歩行・ジョギング、ヨガ、筋力トレーニングが有望で、強度が高いほど効果が大きい傾向が示唆されました。受容性はヨガと筋トレで良好。一方で試験品質のばらつきがあり、結果の一般化には注意が必要です。外来通院中の補助療法として取り入れやすい選択肢です。

抄訳:ランダム化比較試験を対象にシステマティックレビュー+ネットワーク・メタ解析を実施。運動は抑うつ症状を有意に低下させ、効果は中等度。歩行・ジョギング、ヨガ、筋トレの推定が比較的一貫し、処方強度が高いほど効果が大きい傾向。受容性はヨガ・筋トレで良好。盲検困難などに伴うバイアスリスクと研究の質のばらつきが限界。

メモ:最初は速歩20〜30分×週3から。膝・腰・心臓に持病や不安があれば主治医と負荷を相談してください。夜遅すぎる激しい運動は睡眠を妨げる場合があります。アプリで記録すると継続しやすく、行動活性化の効果も安定します。


2)精神科受診希望者に対する3種類のデジタル介入の比較有効性:無作為化臨床試験

原題:Comparative Effectiveness of Three Digital Interventions for Adults Seeking Psychiatric Services: A Randomized Clinical Trial.
Horwitz AG, et al. / JAMA Network Open / 2024 / DOI / Article / PubMed / PMC

要約:2,079人を6週間で比較。デジタルCBT、マインドフルネス、個別化フィードバックはいずれも抑うつ・不安を改善し、群間差は小さめでした。結論は「特定アプリの優位性より、続けやすさが最重要」。受診待機中の支援や、通院と通院の合間のセルフケアとしての利用が現実的です。

抄訳:実用的RCTで5群を相互比較。主要指標PHQ-9は全群で有意に低下。自殺関連指標の一部でマインドフルネス群の改善がやや大きい所見もあるが、総じて差は小。デジタル介入は待機期間の補助、標準治療の補完として提供可能と結論。

メモ:選び方は日本語表示・操作性・通知の量が目安です。


3)プライマリ・ケアでのデジタル行動活性化:無作為化臨床試験(JAMA Internal Medicine 2025)

原題:A Digital Depression Treatment Program for Adults Treated in Primary Care: A Randomized Clinical Trial.
Dahne J, et al. / JAMA Internal Medicine / 2025 / DOI / PubMed

要約:22クリニック・649人の3群試験。自己実践型の行動活性化アプリは通常ケアより症状改善・寛解率が高く、電子カルテ連携の有無で差は小。短時間フォローを添えるだけでも一次医療で実装しやすいことが示されました。重症例や自傷リスクがある場合は医療者の密な管理が前提です。

抄訳:PHQ-9高値の成人外来を対象に、デジタル行動活性化(Moodivate)を検証。12週でBDI-II改善、臨床的改善、寛解率が上昇。EHR連携の有無による差は小さく、セルフガイド+短時間支援でも有効。一次医療の治療ギャップを補う実装可能な介入と結論。

メモ:「朝の5分タスク」を先に決める(短い散歩、洗濯を回す等)。自殺念慮がある時はアプリ単独で進めず、すぐ主治医へ相談しましょう。服薬中でも多くは併用可能です。


4)成人の新規うつ病エピソードに対する心理・薬物・身体・併用治療のネットワーク・メタ解析

原題:A systematic review and network meta-analysis of psychological, psychosocial, pharmacological, physical and combined treatments for adults with a new episode of depression.
Mavranezouli I, et al. / EClinicalMedicine / 2024 / DOI / PMC

要約:676試験・10万例超の包括比較。軽症〜中等度では集団CBTなど心理療法が有力、より重症では個別CBT+抗うつ薬などの併用が上位。治療順位の差は小さい場合も多く、重症度・受療資源・副作用への許容度・希望を合わせて選ぶのが現実的と示されました。

抄訳:新規エピソードの成人を対象に、多クラス比較を実施。重症度層別で傾向が明瞭に。研究異質性と順位の不確実性に留意し、過度な一般化は避けるべきと結論。初期治療の意思決定に資する枠組みを提示。

メモ:軽症は心理療法中心が勧められ、中等度以上は薬物+心理の併用が現実的です。心理療法を受けるのに時間がかかる地域では、先に薬物で症状を和らげ準備が整い次第心理療法を追加する二段構えも選択肢です。


総まとめ(患者さんへ)

運動療法は速歩20〜30分×週3から。デジタル介入は「続けやすさ>アプリの優劣」。一次医療でも行動活性化は導入しやすく、短時間フォローを添えると定着します。初回エピソードは軽症は心理療法中心、中等度以上は薬物+心理の併用が無難。受診の目安:つらさが2週間以上続く、仕事や家事に支障、睡眠や食欲の乱れ、希死念慮が出てきた——いずれも早めの受診を検討してください。

関連ページ:うつ病の治療ショートケアリワーク(職場復帰支援)

本記事は一般情報であり、個別の診断・治療を置き換えるものではありません。(監修者プロフィール)

監修 精神保健指定医 児玉啓輔