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不安障害・パニック障害

不安障害は、実際の危険に比べて過剰な不安や緊張が持続的に続き、日常生活に支障をきたす疾患の総称です。全般性不安障害(GAD)では、漠然とした心配が6か月以上続き、本人がコントロールできない状態になります。パニック障害は突然激しい動悸や息切れが生じ、「このまま死んでしまうのではないか」という恐怖を伴う発作が繰り返される病気です。社会不安障害では人前で恥をかくことへの強い恐怖のため、社交の場を避けるようになります。

統計と実態

不安障害は世界で最も一般的な精神疾患群の一つであり、2021年には約3億5900万人が罹患していると推定され、これは世界人口の約4.4%に相当します。女性の有病率が高く、症状は児童期や思春期から始まることが多いと報告されています。有効な心理療法や薬物療法が存在するものの、実際に治療を受けているのは症状がある人の4人に1人程度にとどまり、発症の早期段階で適切な支援につなげることが課題です。

主な症状

症状は障害のタイプによって異なりますが、以下のような共通点があります。

  • 慢性的な心配や恐れが続き、コントロールが難しい
  • 些細な出来事を過剰に心配したり、最悪の事態を思い浮かべる
  • 落ち着かない、集中できない、イライラするといった精神的症状
  • 疲労感や筋肉のこわばり、頭痛や胃痛などの身体症状
  • 寝つきが悪い・途中で目が覚めるなどの睡眠障害
  • 吐き気や腹部の不快感、動悸や発汗、震えなどの身体症状が出ることもある

パニック発作では激しい動悸、発汗、震え、息苦しさ、胸部不快感、吐き気、めまい、手足のしびれが突然出現します。発作後も「また起こるのではないか」という予期不安が続き、電車や人混みを避けるようになります。社会不安障害では人前で話す、食事をするなどの状況で極端な緊張や赤面、震えが出て人と関わること自体が苦痛になります。また、不安障害が長引くと抑うつ状態や物質使用障害が合併しやすく、自殺念慮や自殺企図のリスクも高まることが知られています。

不安障害の種類

一口に不安障害といっても、症状の現れ方や原因にはさまざまなタイプがあります。代表的な疾患には以下のようなものがあります。

  • 全般性不安障害(GAD):日常生活の幅広い出来事や将来について持続的かつ過剰な心配が続く
  • パニック障害:予期しないパニック発作を繰り返し経験し、再発への恐怖から行動を制限してしまう
  • 社会不安障害:人前で恥をかいたり批判されることへの恐怖から人付き合いや集団の場を避ける
  • 広場恐怖症:電車やエレベーター、混雑した場所など、逃げられない状況に強い不安を感じて避ける
  • 分離不安症:愛着のある人や場所と離れることに対する過度な恐怖が続く
  • 特定の恐怖症:高所や動物、注射など特定の対象に対して強い恐怖と回避が生じる
  • 選択性緘黙:特定の社会的状況では話せなくなるが、安心できる場では普通に会話できる状態で、主に児童に見られる

同じ人が複数の不安障害を併存している場合も少なくなく、症状は年齢や環境によって変化します。

原因・リスク要因

不安障害の原因は完全には解明されていませんが、脳内神経伝達物質の不均衡遺伝的素因に加え、社会的・心理的要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。幼少期のトラウマや虐待、愛着を損なうような環境、厳格な性格傾向、慢性的なストレスや疲労といった心理社会的ストレスは重要なリスク要因です。さらに、心血管疾患や糖尿病などの身体疾患がある人は、不安症状が増悪しやすく、逆に不安による身体的緊張やアルコール乱用が心臓病のリスクを高めるなど、身体と心の相互作用が指摘されています。恥ずかしがり屋や内向的な性格、親や兄弟に不安障害があること、子どもの頃の不遇な体験やトラウマなどもリスク要因として挙げられます。

予防と早期対策

不安障害はさまざまな因子が重なって発症しますが、予防的な介入や生活習慣の改善でリスクを下げることができます。地域社会に根ざした教育や支援が有効とされており、親向けの育児支援や学校での社会的・情動学習プログラムは、子どもがストレス対処能力を身に付けるのに役立ちます。また、成人では定期的な運動プログラムが不安症状の発症を予防する効果が報告されています。症状が数か月以上続いたり生活に支障を来した場合は我慢せず早めに専門家に相談することが大切で、適切な診断と治療により抑うつや物質使用障害への移行を防ぐことができます。

治療法

治療の中心は認知行動療法(CBT)などの精神療法です。CBTでは過度の心配や恐怖を引き起こす考え方を見直し、現実的な思考に修正するトレーニングを行います。曝露療法を取り入れ、少しずつ恐れている状況に慣れていくことで回避行動を改善します。社交不安障害ではロールプレイを用いて人前で話す練習を重ね、自信をつけていきます。

薬物療法

薬物療法ではSSRIやSNRIといった抗うつ薬が用いられます。SSRIは脳内のセロトニン濃度を高めることで不安を軽減し、全般性不安障害やパニック障害、社会不安障害などの第一選択薬とされています。効果が出るまで数週間かかるため、症状の変化を観察しながら用量を調整します。ベンゾジアゼピン系抗不安薬は即効性がありますが、依存のリスクが高く長期使用では効果が減弱するため、ガイドラインでは、漫然とした処方を避け、短期間の頓服薬として用いることが勧められています。

その他、抗ヒスタミン薬のヒドロキシジン(アタラックス)が用いられることがあります。ヒドロキシジンは国内で「神経症における不安・緊張・抑うつ」に承認されており、ベンゾジアゼピン系のような依存性がないことから、補助的に使われることがあります。ただし日本不安症学会・日本神経精神薬理学会のガイドラインでは、第一選択として提案されているのはSSRI・SNRIとされ、抗ヒスタミン薬は、第一選択薬で十分な効果が得られなかった場合などの選択肢と位置づけられています。

このほか、プレガバリンなどのガバペンチノイドと呼ばれる薬は、英国のNICEガイドラインで、SSRI・SNRIが使いにくい場合の選択肢として全般性不安障害に位置づけられています。欧州ではこの疾患への適応が承認されていると報告されています。一方、日本ではプレガバリン(リリカ)の適応は神経障害性疼痛と線維筋痛症に限られ、不安障害に対する適応はありません(適応外使用)。同じガバペンチノイドのガバペンチンは、国内ではてんかんにのみ承認されており、不安症の適応はありません。これらの薬を不安障害の治療に用いる場合は、海外のエビデンスや国内での位置づけについて、主治医とよく相談しながら検討していきましょう。

薬物療法だけでは十分な改善が得られないことも多く、認知行動療法などの心理療法と併用することが勧められています。いずれの場合も、開始・中止を含め薬の調整は必ず医師の指示に従いましょう。

セルフケア・生活習慣

症状の軽減や再発予防には日々のセルフケアが欠かせません。アルコールやカフェインの摂取を控える、適度な運動を定期的に行う、規則正しい生活リズムを維持する、バランスの取れた食事を心がけるといった基本的な習慣が重要です。慢性的な不安を感じた際は、呼吸法や漸進的筋弛緩法などのリラクゼーション技法やマインドフルネス瞑想を取り入れ、ストレスを客観的に眺める時間を作りましょう。心配事を書き出して整理する習慣も思考の整理に役立ちます。症状が強い場合や自分の工夫だけでは改善しない場合は、早めに専門家へ相談し支援を受けることが大切です。

よくある質問

ただの心配性と不安障害はどう違うのですか?

心配性は不安を感じても日常生活はこなせるのに対し、不安障害では不安や緊張が長く続き、仕事や対人関係、睡眠などに支障が出る点が異なります。たとえば動悸や息苦しさで外出を避けてしまう、心配で集中できず業務に手がつかないといった状態が数週間以上続く場合は、相談の目安になります。当院では一人ひとりの状態をていねいに伺い、診断と必要な対応は医師が一人ひとりの状態に応じて判断します。ご自身が病気かどうか判断がつかない段階でも、状態をお聞かせいただける場を目指しています。

薬はいつまで飲み続ける必要がありますか?

不安障害の薬物療法では、症状が落ち着いてからもしばらく服薬を続けることが、再発予防の観点からガイドラインで勧められています。服薬を続ける期間には個人差があり、状態を見ながら医師と相談して少しずつ調整していくのが一般的です。当院では患者さんと話し合いながら治療方針を決めるスタイルを大切にしています。自己判断での中断は症状がぶり返すことがあるため、減らし方ややめ方も一緒に考えていきます。お薬の効果の現れ方には個人差があることもご理解いただけたらと思います。

パニック発作が職場で起きないか不安です。働きながら治療できますか?

お仕事を続けながら通院されている方も多くいらっしゃいます。働きながら治療に取り組めるかどうかは、症状やお仕事の状況によって異なります。治療が進むなかで、発作への対処法を身につけたり、「また起きるのでは」という予期不安がやわらいでいったりすることがあるとされています(効果の現れ方には個人差があります)。当院では通いやすさに配慮した体制を整え、症状が強い時期には、必要に応じて休職や働き方の調整についてもご相談に応じます。診断と治療方針は医師が一人ひとりの状態に応じて判断します。お一人で抱え込まず、まずはお気軽に状態をお聞かせいただけたらと思います。

抗不安薬は依存しないか心配です。やめられなくなりますか?

即効性のあるベンゾジアゼピン系の抗不安薬は依存のリスクがあるため、ガイドラインでは漫然と長期間使うことを避け、短期間や頓服での使用が勧められています。当院では、ベンゾジアゼピン系と比べて依存性の問題が少ないとされるSSRIやSNRIといった薬を中心に、必要最小限の単剤での治療を重視しています。これらの薬にも飲み始めや中止の際にあらわれる症状があり、効果や副作用の現れ方には個人差があります。どのお薬を使うか、その量や期間も、医師が一人ひとりの状態に応じて判断します。お薬への不安や疑問は遠慮なくお伝えいただき、納得して治療を進められるよう医師が一緒に考えていきます。

参考文献

  • World Health Organization. Anxiety disorders. 2023.
  • National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Generalised anxiety disorder and panic disorder in adults: management (CG113). 2011 (改訂2020年).
  • National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Social anxiety disorder: recognition, assessment and treatment (CG159). 2013.
  • Japanese Society of Anxiety and Related Disorders / Japanese Neuropsychiatric Pharmacology Society. Guidelines for panic disorder and other anxiety disorders. 2025.
  • American Psychiatric Association. Practice guideline for the treatment of patients with panic disorder. 2009.
  • American Psychiatric Association. Practice guideline for the treatment of generalized anxiety disorder. 2010.
  • Frontiers in Psychiatry. Pharmacotherapy for anxiety disorders: current and emerging treatment options. 2021.
心の落ち着きを象徴する穏やかな森林の風景

本ページの医療情報は、当院院長(日本専門医機構認定 精神科専門医・精神保健指定医)の監修のもと作成しています。記載は一般的な情報の提供を目的としたもので、診断・治療はお一人おひとりの状態に応じて医師が判断します。