発達障害
発達障害とは、神経発達に関連する機能が幼少期から偏りを示し、社会的コミュニケーションや行動の調整に困難が生じる状態の総称です。代表的なものに自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)があり、症状の現れ方は一人ひとり異なります。多くの場合、幼児期や児童期に特性が現れますが、周囲の理解と本人の工夫により成人期まで気付かれないこともあります。
自閉スペクトラム症(ASD)
ASDは、社会的コミュニケーションの障害と限定された反復的な行動・興味を特徴とします。対人関係における距離感や非言語的なサインの読み取りが苦手で、話し方が一方的になったり、独特な言い回しになることがあります。また、特定の対象や活動に強くこだわる、日課の変更を嫌う、音や光など特定の感覚に敏感または鈍感であるなどの特徴がみられます。知的能力や言語発達には幅広い分布があり、一部の人は得意分野で高い能力を発揮します。
注意欠如・多動症(ADHD)
ADHDは、不注意、多動・衝動性の症状が年齢不相応に強く表れる神経発達症です。DSM‑5‑TRでは、不注意優勢型、過活動・衝動性優勢型、混合型に分類されます。主な症状には、詳細に注意を払えずケアレスミスが多い、課題や遊びに集中し続けられない、忘れ物や遅刻が多い、座っているべき場面で立ち上がってしまう、しゃべりすぎる、人の話を遮ってしまうなどがあります。診断には症状が12歳以前に始まり、家庭や学校・職場など複数の場面で6か月以上続き、日常生活に支障を来すことが求められます。
治療・支援
発達障害は完治を目指す病気ではなく、本人の特性を理解し支援することで日常生活を送りやすくすることが目標です。治療・支援は多面的で、以下の方法が組み合わせて用いられます。
- 心理教育とスキルトレーニング:本人や家族が障害について理解し、社会的スキルや対人スキル、問題解決能力を学びます。ASDでは構造化された環境やコミュニケーション訓練、ADHDでは行動療法や認知行動療法が有効です。
- 薬物療法:ADHDの症状に対してはメチルフェニデートやリスデキサンフェタミンなどの中枢神経刺激薬が効果的ですが、食欲減退や不眠、心拍数増加などの副作用があります。非刺激薬としてアトモキセチンやビロキサジン、グアンファシン、クロニジンがあり、眠気や口渇などの副作用が報告されています。ASDに特異的に効果のある薬は存在しませんが、興奮や不眠、不安などの二次症状に対しては抗精神病薬や睡眠薬を短期間使用することがあります。
- 環境調整と合理的配慮:学校や職場などの環境を本人に合わせて調整し、過剰な刺激を避けたり予測可能なルーチンを整えることで生活しやすくなります。合理的配慮の提供は法的にも求められています。
当クリニックでは、本人・家族へのサポートや医療・教育・福祉機関との連携を通じて、長期的な支援を行います。二次的に抑うつや不安が生じている場合はその治療も並行して行います。
セルフケア・サポート
自分の特性を理解し、得意なことを活かす環境を見つけることが大切です。十分な睡眠と規則正しい生活習慣、適度な運動は集中力と情緒の安定を助けます。過剰なカフェインやアルコールは症状を悪化させる可能性があるため控えめにしましょう。ストレスを感じたときは一人で抱え込まず、家族や支援者に相談してください。
