睡眠障害

睡眠障害は、寝付きが悪い(入眠困難)途中で目が覚める(中途覚醒)早朝に目が覚めて二度と眠れない(早朝覚醒)といった症状や、日中の強い眠気など、睡眠の量や質が不十分な状態の総称です。不眠症は代表的な睡眠障害で、十分な睡眠を取れないために日中の活動や気分に悪影響が出ます。

統計と実態

不眠症は非常に一般的で、成人のおよそ3分の2が一時的に入眠困難や途中覚醒などの不眠症状を経験し、慢性的な不眠症は10〜15%に見られると報告されています。女性は男性より40%ほど不眠症になりやすく、加齢とともに症状が増え、高齢者の約75%が睡眠障害を抱えているとの研究もあります。また、米国では約5,000万〜7,000万人が何らかの睡眠障害を抱えており、レストレスレッグ症候群は成人の5〜10%、ナルコレプシーは約2,000人に1人に見られます。睡眠障害は時に見過ごされがちですが、日中のパフォーマンス低下やうつ・不安障害、糖尿病や高血圧など身体疾患の悪化を招くため、早期の対応が重要です。

国際睡眠障害分類(ICSD‑3)では睡眠障害を以下の6つのカテゴリーに分類しています。

  • 不眠症群 – 入眠困難や中途覚醒、早朝覚醒が続き、日中の倦怠や集中力低下など生活機能に支障をきたす状態。
  • 睡眠関連呼吸障害群 – 睡眠時無呼吸症候群や低換気症候群など、呼吸の異常によって睡眠の質が妨げられる障害。
  • 中枢性過眠症群 – ナルコレプシーや特発性過眠症など、過度の眠気を主症状とする状態。
  • 概日リズム睡眠覚醒障害群 – シフトワーク障害や時差ぼけ、概日リズム睡眠相後退症候群など、体内時計の乱れに起因する障害。
  • 睡眠時随伴症群 – 悪夢障害やレム睡眠行動障害、睡眠時遊行症(夢遊病)など、睡眠中の異常行動を伴う障害。
  • 睡眠関連運動障害群 – レストレスレッグ症候群や周期性四肢運動障害など、脚の不快感や不随意運動によって眠りが妨げられる障害。

原因・リスク要因

睡眠障害の背景には複数の要因が絡み合っています。ストレスや心配事、昼夜逆転やシフトワークなど生活リズムの乱れ、夜間のスマートフォン使用、カフェインやアルコールの摂取、騒音や室温など睡眠環境の乱れが代表的です。また、女性や高齢者では不眠症のリスクが高く、閉経前後の女性の約39〜47%、閉経後の女性の35〜60%が睡眠障害を抱えることが報告されています。睡眠時無呼吸症候群のような睡眠関連呼吸障害や、ナルコレプシー、レストレスレッグ症候群など他の睡眠疾患を合併するケースもあります。うつ病や不安障害、認知症、慢性疼痛、甲状腺疾患などの身体疾患や特定の薬剤の副作用も不眠を引き起こします。加齢に伴い睡眠の質は低下し、高齢者では睡眠が浅く短くなりやすいため、日中の活動量の確保や規則正しい生活習慣が重要です。

治療法

治療は原因に応じて多面的に行うことが重要です。睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグ症候群が疑われる場合は専門的な検査やCPAP療法、鉄剤治療などの対策が必要となり、内科疾患やうつ病・不安障害など基礎疾患の治療も欠かせません。そのうえで、睡眠障害全般に共通する第一選択として睡眠衛生指導認知行動療法(CBT‑I)を実施します。睡眠衛生とは寝室の環境を整える、就寝前のスマートフォンやカフェインを控える、毎日同じ時間に起床する、日中に適度な運動を行うなどの生活習慣の改善です。CBT‑Iは6〜8回のセッションで構成され、睡眠に対する誤った考え方や行動を修正し、リラクゼーションや刺激制御療法、睡眠制限療法など複数の技法を組み合わせて睡眠の質を高める治療法であり、慢性不眠症の第一選択として推奨されています。

薬物療法

薬物療法は短期間の補助的手段として用いられます。代表的な薬剤には以下があります。

  • ベンゾジアゼピン系睡眠薬(フルラゼパムなど) – 脳の活動を抑えて眠りやすくしますが、依存性や翌日持ち越し効果に注意が必要です。
  • 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(ゾルピデム、ゾピクロン、エスゾピクロン) – 筋弛緩作用が少なく入眠効果が高い。半減期に応じて使い分けます。
  • デュアルオレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント、レンボレキサント、ダリドレキサント) – 覚醒物質オレキシンの働きを阻害し、自然な眠りを促します。
  • メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)やメラトニン – 体内時計を整え入眠を促します。
  • 抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン、ドキシラミン)や抗うつ薬(ドキセピン、トラゾドン) – 鎮静作用を利用しますが、翌日眠気や口渇などの副作用が出ることがあります。

睡眠薬は依存や転倒リスクを避けるため、医師の指導のもと短期間に限って使用し、定期的に見直します。漫然と飲み続けるのではなく、睡眠衛生とCBT‑Iを併用し、薬に頼りすぎない治療が推奨されます。

セルフケア・生活改善

規則正しい睡眠リズムを保つことが大切です。寝床ではスマートフォンやテレビを見ない、寝る前の入浴で体温を一旦上げてから下げる、日中に太陽光を浴びるなどで自然な眠気を誘います。カフェインやアルコール、喫煙は睡眠の質を低下させるため夕方以降は控え、就寝前の食事は軽めにします。運動は日中の適度な有酸素運動が推奨され、寝る直前の激しい運動は避けましょう。寝付きが悪いときは無理に眠ろうとせず、一度ベッドを出てリラックスできる活動(読書やストレッチ)をすると良いでしょう。瞑想やゆっくりした腹式呼吸、筋弛緩法などのリラクゼーション技術も効果的です。睡眠薬に頼りすぎず、生活習慣とCBT‑Iを継続することが長期的な改善につながります。

夜空と静かな風景が描かれたリラックスできるイメージ