小児のADHD(注意欠如・多動症)
「落ち着いて座っていられない」「忘れ物やケアレスミスが多い」「順番を待つのが苦手」——お子さんのこうした様子に、ご家族が悩まれることは少なくありません。ADHD(注意欠如・多動症)は、本人の努力不足やしつけの問題ではなく、生まれつきの特性が背景にある神経発達症のひとつとされています。
当院は小児のADHDについて、心理検査とカウンセリングを中心とした支援を行う予定です(当院は2027年4月開院予定です)。お子さん自身が自分の特徴を理解し、生活しやすくなることを目標に、ご家族・学校とも連携しながらサポートしていきます。必要に応じて医師による診断や薬物療法も行う予定ですが、日本のガイドラインに沿って、まずは環境調整や行動面の工夫を大切にする段階的な進め方を基本とします。
当院の支援方針
はじめに、当院の小児ADHDへの考え方をお伝えします。
- 心理検査・カウンセリングが中心です。お子さんの特性をていねいに把握し、ご本人とご家族が「どう関わると過ごしやすくなるか」を一緒に考えることを大切にします。
- 診断と薬物療法も、必要に応じて行います。診断は医師が複数の情報をもとに総合的に判断します。お薬は、環境の工夫だけでは困りごとが続く場合に、ご家族とよく相談したうえで検討します。
- 段階的に進めます。日本のガイドラインでは、まず環境調整や行動面の支援から始め、必要に応じて薬物療法を併用する方針が示されているとされています。当院もこの考え方に沿います。
お子さんの心理検査・カウンセリングは当院で受けていただけます。心理検査・カウンセリングには保険診療で行うものと自費となるものがあり、内容・費用は心理検査・カウンセリングのページでご案内します。発達障害に特化した専門プログラム(ショートケアでの実施を検討中)やリワークの提供時期は未定です。予約方法などの詳細は開院時にあらためてご案内します。
小児のADHDとは(症状・特徴)
ADHD(注意欠如・多動症)は、不注意と多動性・衝動性のいずれか、または両方が、年齢相応の範囲を超えて持続し、生活や発達の妨げになっている状態とされています(DSM-5-TR, 2022)。現れ方には個人差があり、次のような様子がみられることがあります。
- 不注意:話を最後まで聞くのが難しい、物をなくしたり置き忘れたりしやすい、外からの刺激で気がそれやすい、宿題や課題を最後までやり遂げにくい、うっかりミスが多い、など。
- 多動性:座っていても手足をそわそわ動かす、席に着いているべき場面で立ち上がってしまう、静かに遊ぶのが苦手、しゃべりすぎる、など。
- 衝動性:順番を待つのが苦手、質問が終わる前に答えてしまう、人の会話や活動に割り込んでしまう、など。
大切なのは、単に活発・忘れっぽいというだけでなく、こうした様子が家庭・学校など2つ以上の場面にわたって続き、学業や友人関係、家庭生活に支障が出ているかどうかです。活発さや好奇心は、お子さんの強みでもあります。困りごとと強みの両面を見ていくことが支援の出発点になります。
診断の進め方(DSM-5-TRと心理検査の位置づけ)
ADHDには、これ一つで診断が決まるという検査は存在しないとされています。医師が、ご家庭や学校など複数の場面での様子を聞き取り、成育歴や経過もあわせて総合的に判断します。心理検査や行動評価スケールは、あくまで診断を補助し、特性を把握するための情報という位置づけです。
国際的な診断基準であるDSM-5-TRでは、おおむね次の点が確認されるとされています。
- 不注意・多動性/衝動性の症状について、子ども(16歳以下)は各群で6項目以上が該当すること。
- いくつかの症状が12歳になる前からみられていたこと。
- 症状が2つ以上の場面で認められ、社会的・学業的な機能に明らかな支障が出ていること。
- 症状が少なくとも6か月続き、ほかの精神疾患ではうまく説明できないこと。
臨床像は、不注意と多動・衝動性の両方がみられる「混合型」、不注意が目立つ「不注意優勢型」、多動・衝動性が目立つ「多動・衝動性優勢型」に分けられるとされています。当院では、必要に応じて知能検査や行動評価などを組み合わせ、お子さんの得意・不得意をていねいに見立てたうえで、診断や支援方針をご家族と共有します。心理検査の内容については心理検査・カウンセリングのページもご覧ください。
当院の支援内容(心理検査・カウンセリングを中心に)
日本小児神経学会は、ADHDの治療の基本を「子ども自身が自分の特徴を理解し、状況に合った行動が取れるようになること」とし、お薬以外の支援(心理社会的治療)と薬物療法を治療の2本柱としているとされています。当院は前者を中心に据える予定です。
- 環境調整:本人の困りごとに合わせて、過ごしやすいよう周りを工夫することです。たとえば、忘れ物を防ぐためのリスト作り、刺激の少ない座席への配慮などがあり、学校での合理的配慮の考え方にもつながります。
- 行動療法:望ましい行動をほめて伸ばし、うまくいかない行動はそのきっかけや対応のしかたを工夫していく方法です。
- ペアレントトレーニング:同じ悩みを持つ保護者の方々が、行動療法の考え方をもとにお子さんの行動の理解と関わり方を学ぶプログラムです。2025年には『注意欠如多動症に対するペアレント・トレーニングガイドライン』も公開され、幼児期・児童期・思春期のお子さんへの有効性が示されているとされています。
- ソーシャルスキルトレーニング:人との関わり方や感情のコントロールなど、社会生活に役立つ技術を練習で身につける取り組みです。
必要に応じた薬物療法について
環境の工夫だけでは困りごとが続く場合に、ご家族とよく相談したうえでお薬を検討します。日本で小児(6歳以上)のADHDに承認されている主なお薬は次のとおりです。いずれも6歳未満では有効性・安全性が確立していないとされ、量や種類は医師がお子さん一人ひとりの状態に合わせて決めます。
- コンサータ(メチルフェニデート徐放錠)・ビバンセ(リスデキサンフェタミン):中枢神経を刺激するタイプのお薬です。ビバンセは「小児期におけるADHD」が対象で、ほかのADHD治療薬で効果が不十分な場合に用いるとされています。これら2剤は、専用の流通管理(ADHD適正流通管理システム)に登録された医師・薬局でのみ処方・調剤できる仕組みになっています。食欲の低下・不眠・腹痛などが報告されており、体重や睡眠などを確認しながら使用します。
- ストラテラ(アトモキセチン)・インチュニブ(グアンファシン徐放錠):中枢神経を刺激しないタイプのお薬で、6歳以上の小児に承認されています。眠気・口の渇き・血圧低下などが報告されています。これらは流通管理の登録医制度の対象外です。
日本小児神経学会の解説では、メチルフェニデート徐放剤・グアンファシン徐放剤の有効率は、いずれも約70%とされています(中核症状に対する反応についての数値で、効果には個人差があります)。お薬は単独で完結するものではなく、行動面の支援や学校での工夫と組み合わせて使うことが大切とされています。なお、海外でADHDに用いられることのあるクロニジンは、日本ではADHDの適応がなく(高血圧症の治療薬として承認)、ADHDに使う場合は適応外となります。実際の治療では、こうした選択肢の中から、主治医と一緒にお子さんに合った方法を考えていきます。
家庭・学校での工夫と合理的配慮
お子さんが過ごしやすくなるためには、ご家庭や学校での工夫が大きな助けになります。次のような取り組みを試してみましょう。
- 見える化する:To-Doリストやタイマー、カレンダーで「やること」と「時間」を目に見える形にすると、見通しが立てやすくなります。
- できたことに目を向ける:うまくいかない点を叱るより、できたことを具体的にほめることが、望ましい行動を育てる助けになるとされています。
- 刺激を整える:勉強や宿題のときは、気が散りやすい物を片づけ、静かな環境をつくると集中しやすくなります。
- 生活リズムを整える:十分な睡眠と規則正しい生活、適度な運動は、情緒の安定や集中の助けになります。
学校では、座席の配置の工夫や課題の提示のしかた、休憩のとり方などの合理的配慮が役立ちます。合理的配慮の提供は法的にも求められており、ご家庭と学校が連携し、お子さんに合った支援を整えていくことが大切です。当院でも、ご希望に応じて学校との連携についてご相談に応じる予定です。
思春期から成人への移行
ADHDの特性は、成長とともに現れ方が変わりながらも続くことがあるとされています。たとえば、小さい頃に目立っていた多動が、思春期以降は内側の落ち着かなさとして感じられるようになることもあります。診断に必要とされる症状の数も、17歳以上では各群6項目から5項目へと変わるとされており、年齢による変化が反映されています。
お薬の面では、ADHDの治療薬のうちコンサータ(メチルフェニデート)・ストラテラ(アトモキセチン)・インチュニブ(グアンファシン)は、小児(6歳以上)だけでなく成人(18歳以上)のADHDにも承認されていますので、成人期にも続けて使うことができます。一方、ビバンセ(リスデキサンフェタミン)は「小児期におけるADHD」が対象で、18歳以上で新たに始める適応はありません(18歳未満で始めた方が18歳以降も続けて使う場合の規定が定められています)。このため、移行期には薬剤ごとの違いを踏まえた治療計画の見直しが必要になることがあります。
当院は働く世代の方の診療にも力を入れています。成人期のADHDについては、成人ADHD(注意欠如・多動症)のページで、症状の現れ方や診断・治療の進め方をご紹介しています。発達障害全般については発達障害のページもあわせてご覧ください。なお、お子さんの心理検査・カウンセリングは当院で実施する予定です。
よくある質問
受診したらすぐに診断や薬が必要になりますか
いいえ、受診がそのまま診断や服薬につながるわけではありません。当院はまず心理検査やカウンセリングでお子さんの特性をていねいに把握し、ご家庭・学校での工夫から一緒に考えていくことを大切にしています。お薬は、環境を整えても困りごとが続くときに、ご家族とよく相談したうえで必要に応じて検討します。診断や治療方針は、医師がお子さん一人ひとりの状態に応じて判断します。
子どもが落ち着かないのは育て方やしつけのせいでしょうか
ADHDは育て方やしつけが原因で生じるものではなく、生まれつきの特性が背景にある神経発達症のひとつとされています。ご家族が自分を責める必要はありません。むしろ、お子さんに合った関わり方を知ることで、ご家庭での過ごしやすさが変わっていくこともあります(変化のあらわれ方には個人差があります)。当院では、保護者の方が関わり方を学ぶペアレントトレーニングなどを通じて、ご家族を一緒に支えていくことを大切にしています。
学校との連携や合理的配慮について相談できますか
はい、ご希望に応じて学校との連携についてご相談に応じています。座席の配置や課題の出し方、休憩のとり方などの合理的配慮は、お子さんが過ごしやすくなる助けになります。心理検査で分かったお子さんの得意・不得意を、ご家庭と学校で共有しながら支援を整えていくことが大切です。具体的にどんな配慮が役立つかも、一緒に考えていきます。
親として、家庭でできる関わり方のコツはありますか
うまくいかない点を叱るより、できたことを具体的にほめることが、望ましい行動を育てる助けになるとされています。やることや時間をリストやタイマーで「見える化」し、勉強のときは気が散る物を片づけると、見通しが立ち集中しやすくなります。十分な睡眠と規則正しい生活も情緒の安定を支えます。うまくいかない日があっても自然なことですので、できそうなところから一緒に試していきましょう。
参考文献
- ADHDの診断・治療指針に関する研究会/齊藤万比古・飯田順三 編. 注意欠如・多動症—ADHD—の診断・治療ガイドライン 第5版. じほう, 2022年.
- 日本児童青年精神医学会ほか. 注意欠如多動症に対するペアレント・トレーニングガイドライン. 2025年.
- 日本小児神経学会「Q69:注意欠如・多動症(ADHD)にはどのような治療法がありますか?」 https://www.childneuro.jp/general/6536/
- American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision (DSM-5-TR). 2022.
- コンサータ錠/ビバンセカプセル/ストラテラカプセル/インチュニブ錠 各添付文書(PMDA 医療用医薬品情報).
本ページの医療情報は、当院院長(日本専門医機構認定 精神科専門医・精神保健指定医)の監修のもと作成しています。記載は一般的な情報の提供を目的としたもので、診断・治療はお子さんの状態に応じて医師が個別に判断します。